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今日ピクシブに放り込んだばっかなのですがね。わずかに(ほんとにちょっとだけ)手直ししてあります。
ギリシア神話時代考証無視ハデペル……ペルハデ?
ペルセポネがちょっと黒いです。
黒くない乙女っ娘ペルセポネでもなんか書きたい。
ギリシア神話時代考証無視ハデペル……ペルハデ?
ペルセポネがちょっと黒いです。
黒くない乙女っ娘ペルセポネでもなんか書きたい。
――冬が、来た。
「おかえり、ペルセポネ」
「ええ、やっと帰ってこれたわ、ハデス」
言って彼女は私の手を取って微笑み、ふうとひとつ息を吐く。私はそれに、軽い違和感を覚えた。私の事を嫌っているわけではなかった、むしろ望んでくれていた――それは前の冬の始まりに、私がやっと気づいた事だったのだが。
「ペルセポネ、地上は」
「それよりも先に着替えていい? 冥府でこの格好だと落ち着かないわ」
「……君の好きに」
すげなく私の問いを遮った彼女に、戸惑いがちに答えると、彼女は長い灰色の髪と白い乙女らしい――「コレー」らしい衣を靡かせ、侍女を伴って去っていく。
「王よ、政務にお戻りを。じきに多くの死者が」
「……わかっている」
急かすミノスに一言答えて、私は冥府の玉座へ歩を進めた。
「まだそれほど忙しくはないようね、ハデス」
黒衣に着替えたペルセポネが、かつかつと踵を鳴らしながら私の座へ近づいてくる。以前は空席だったことも多かった私の隣、冥妃の席に腰を下ろし、艶然と微笑む。降りてきたときには素顔だったが、着替えとともに化粧もしっかりとすませた、黒と紅を重ねた唇。
「母にも困ったものだわ。いい加減に娘離れをして欲しいのに」
ちょうど死者が途切れたところだったからか、ペルセポネが問わず語りをはじめる。
「勘違いしないでね、母様のことは嫌いじゃないわ。でも、私は冥府にいる方が本当は好きなの」
「……そうなのか?」
「そうよ。寝る間も減るほど忙しくなる貴方には迷惑でしょうけど」
「そんなことはない」
事実、彼女に会えるのなら、寝る間などいくら削っても私は構わなかった。
「ねえ、私は誰?」
「私の妃だよ、ペルセポネ」
「私はね、その名前が好きなの」
驚きで声が出なかった。
「初めは嫌がっていたけれど、ペルセポネ――光を壊す者、その名も、冥府も、好きよ。春の乙女と言う呼ばれ方は好きじゃないの。母は人妻となった私をいまだにコレーと、乙女と呼ぶし、過保護がひどくて息苦しいんだもの。
それに、私の髪の色」
「嫌いなのか? その色が」
彼女の髪は、綺麗な灰色だ。銀のように白くも輝いているわけでもないが、私は好きだった。
「だって、春の乙女らしくないでしょう。色彩を失った髪。花に色を付けるのも、好きだけど嫌い。母は私に白い衣ばかり着せるから、余計この髪が目立つの。いっそ黒なら開き直れたのにね。それにあなたと同じ色だわ、黒なら」
「……私はその髪も好きだよ」
「知ってるわ」
「白い衣だって似合っている」
「でも黒衣の方が好き」
「冥府だと、君の髪はぼんやり光って見える」
「その光が、あなたの目を眩ませるのね」
くすくすと、楽しげに彼女は笑う。
「髪だけじゃない」
「それも知ってるわ。あなたが思っている以上に、私はあなたをよく知っている。ねえハデス、あなたは私にたくさんの物をくれたのよ。あなたが気付いていないだけ」
よくわからなくて、私は黙ってしまった。私のようなつまらない男が、彼女に何を与えてやれたというのだろう。
「ミントのお茶が飲みたいわ」
「……好きだね。今用意させるよ」
侍女に伝えて下がらせる。
「ミントそのものは嫌いよ。下らない草のくせに、繁殖力が強くて」
「――それは」
私の、あの過ちの事を言っているのだろう。
「白ポプラも嫌い」
「……知っているのか?」
「いいえ、なんにも。誰からも何も聞いていないし、私も尋ねたりしてない。ただ嫌いなだけ」
彼女は嘘を吐いたことはない。本当に知らないのだろう。そして、私が思っている以上に私の事を知っているという言葉も。
「ねえ知ってる? ミントには、子供をできにくくさせる効力があるの。なのに繁殖力は強いのよ。本当に鬱陶しい草。――だからたくさん、お茶にして飲まなくちゃ」
「……ペルセポネ、君は子供は欲しくないのか」
「私はもう無垢な乙女ではないのよ」
もともと明るいとはお世辞にも言えない性分だったけれど、と彼女は続けた。
「あなたが嫌いなわけではないわ。むしろその逆。それは知っているでしょう、ハデス、私の王?」
「……去年、気が付いた」
「でも私の事をあまりわかっていない」
「……ペルセポネ」
「気にしないで。その方がいいのよ。私は今の関係を気に入っているの。今はまだ」
運ばれてきたミントの茶を啜りながら、彼女は笑みを深めた。
私は彼女の意図がつかめず、ただ戸惑うばかりだった。
――ねえハデス、あなたは私にたくさんの物をくれた。ペルセポネの名だけじゃない、地上にいた頃、コレーとだけ呼ばれていた頃には名が付いていなかった感情に名をくれた。
嫉妬。
束縛願望。
征服欲に嗜虐欲。
それから、男に対する独占欲。
――恋。ハデス、あなたへの。
あなたの心を、喜びで苦しみで罪悪感で弄んでいいのは私だけ。
孤独を感じさせていいのも私の存在と不在だけ。
子供はいらないの。父親になんてなったら、あなたは私だけの物でなくなってしまうから。
ねえ、だからもっと私を見て。私を呼んで。地上から春が永久に失われてしまうほどに。私がそれを望むほどに。いいえ、きっと本当はもう、私は望んでいるのだけれど。でもそうすると、今ほどあなたを弄べなくなるから、それはまだいいわ。
私だけに千々に乱れて。
ねえ、私の王、可愛いハデス。
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