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登校日帰りにふらりと通ってみた公園で、懐かしくなってブランコに腰掛けて漕ぎながらふと地面を見ると蝉の死骸。ああ、もう夏も終わりなのね。
てな感じの絵が描きたくてざっとラフ。
つづきよりガヴァルフィリ高校生パロ話です。花火ネタ。
毎度のことながらオチはありません。
てな感じの絵が描きたくてざっとラフ。
つづきよりガヴァルフィリ高校生パロ話です。花火ネタ。
毎度のことながらオチはありません。
「もう少しで夏休みも終わりますけど、せっかくだから花火をしませんか?」
襟元を団扇で煽ぎながら冷えた麦茶を呷るガーヴに、子供用の花火セットを取り出して、フィリアが小首をかしげながら上目遣いに提案した。
「花火? なんだよガキじゃあるまいし」
リビングと一続きになったキッチンの冷凍庫から、アイスキャンディーを取り出しながらヴァルガーヴがジト目で言う。
「夏休みがはじまりたての頃、懐かしくなってひとつ買っておいたんですけど、そのままほったらかしになってたのを思い出して。今年はガーヴさんが予備校の夏期講習でどこにも行けなかったし、夏らしい思い出が何にもないんですもの。ヴァル、それもう今日三本目よ。先週の夏祭りもアイスの食べ過ぎでお腹壊して行けなかったんだからちょっとは反省して」
うるせーな、しょーがねーだろ暑いんだから、と舌を出すヴァルガーヴに、「それなら今度は一週間カレーにするわよ」とフィリアが唇を突き出す。そういえば先週ヴァルガーヴが腹を壊したとき、直った後三日も連続で熱々のカレーだった、暑いときに何が悲しくて熱くて辛いもんをくわなきゃならねーんだと散々愚痴られた。フィリアがガーヴに料理を習いたいと言いだしたのは数か月前だ。夏にも入ってそれもずいぶんと手慣れてきたので、ガーヴが夏期講習で家を空ける夏休み中の昼は、フィリアがこうして昼食を作りに来ている。そのまま午後は丸々フィリアはガーヴの家で過ごしているようで、おかげでヴァルは宿題もはかどって(というより無理やりやらされて)いるらしい。そんなこんなで、今年は宿題が終わらないと泣きつかれずに済みそうだとガーヴは安心して夏休みを満喫していた。受験勉強漬けを満喫していると言っていいのなら、だが。
「またカレーかよ。たまには素麺にしようぜ。今年に入ってまだ素麺二回しか食べてないぞ。夏ってったら素麺だろ」
「素麺は食べやすいけど栄養価が低いしお腹にたまらないから、夏バテ防止に控えるようにってガーヴさんから言われてるのっ」
「そーだぞヴァル、大人しくフィリアの言うこと聞け。多少尻に敷かれとく方が家庭はうまくいく」
「兄貴はここんとこフィリアの味方ばっかだ。大体なんで俺がフィリアのでかい尻に敷かれてやらなきゃならねーんだよ」
「将来の予行演習、いや予行じゃねぇか。相手はフィリアに決まってるんだから」
「決まってねーよ!」
「ちょっとヴァル、私のお尻が大きいってどういうこと!」
「うっせーな、フィリアの乳と尻はでかいって評判なんだよ!」
「なっ……誰が言ってるんです、そんなこと! 確かめもしないでっ」
「確証がないのに言うのはよくねーな。触らしてもらって確認しとけ」
「ばっ、バカ言ってんじゃねーバカ兄貴! どーでもいーだろそんなこと! フィリアの乳がでかかろうが尻が垂れてようが俺はしらねーし! 関係ねーし! しらねーったらしらねー!」
「私のお尻は垂れてません!」
「しらねー! しらねー!」
ぱん!
ガーヴが両手を叩き合わせて音を立てると、ふたりがはたと固まった。
「花火がしたいんだったな、フィリア?」
「あ……はい。そうです」
「いいじゃねえか。やろうぜ。たまには童心に帰って夏の思い出を作るのもいいだろ。ヴァル、昼飯作ってもらってるんだからそれくらいつきあってやれ」
ガーヴが言うとヴァルは唇をひん曲げた。最初に煽ってきたのは兄貴の癖に、いきなり大人ぶんなよ、とぶちぶち呟いているが聞こえないふりをする。
「日が落ちるのも早くなったし、まだちっと明るいがはじめるか。いくら近所ってもあんまり遅くまでフィリアを付き合わすのも悪いしな。まあもちろんヴァルに送らせるけど」
また俺かよ、いーけど、フィリアになんかあったら後味悪いし、けど、あー、もー、しらねっ。ヴァルガーヴがまたぶつぶつと呟いているが、フィリアの耳には届かなかったようだ。
「本当ですかっ!?」
大きな瞳を目いっぱい見開いてきらめかせながら、フィリアがガーヴに迫る。
「おう。バケツに水入れて持ってくから、先に外出てろよ」
「はいっ。行きましょ、ヴァル!」
「へいへい」
アイスキャンディーの棒を捨て、うんざり顔でヴァルガーヴがフィリアの後に続く。今にもスキップをはじめそうなくらいうきうきした様子のフィリアは、はやくはやく! とヴァルガーヴの手をつかんで引っ張っていく。瞬間、ヴァルガーヴの頬がさっと赤くなるのをガーヴは見逃さなかった。なにはしゃいでんだよ年甲斐もなく。もー、俺、しらねー。とか呟いているに違いない。照れたついでに、珍しく髪をアップにしているせいであらわになったうなじの白さにもどぎまぎしているに決まっている。ああ、素晴らしきかな青春。お兄ちゃんは何でもお見通しだ。本当は二人っきりにしてやりたい気もするが、たまには混ぜてもらってもいいだろう。
さてバケツ……と蝋燭はどこだったかな、とガーヴはソファから腰を上げた。
「きゃあ、きれい! 本当、花火なんて久しぶり。小学校以来だわ」
「……そう言えば俺もそうだ。そっか、フィリアと花火すんのは初めてか。中学入ってからだったもんな、フィリアが越してきたの」
「そうよ、ヴァル、気づいてなかったの? あ、色が変わった! 緑色。きれい……」
青い瞳に緑の火花を映して、うっとりとフィリアが頬に手をあてる。
「ほれフィリア、見てばっかいないでお前もやれよ」
ガーヴは袋から適当に出した一本をフィリアに手渡してやる。
「はいっ。ありがとうございます」
フィリアが花火に蝋燭から火をつけると、じゃあああとかぱちぱちとか言わせながらオレンジの火花が飛びだした。
「わー、きれい……。買っておいてよかった」
「兄貴、俺の終わっちまった。次の出してくれよ」
「おう」
ヴァルガーヴに新しい花火を手渡すと、これまた鮮やかな火花があがる。ヴァルガーヴとフィリアの二人は、しばらく言葉もなく花火を見つめていた。ガーヴは黙って、ほの赤く照らされた二人の顔を眺める。
ぱち。
すこし大きな音がして、二人の花火が同時に消えた。
「あ、終わっちゃった」
残念そうに、フィリアは終わった花火をバケツの水につける。
「あ、これでもう最後だ。線香花火」
新しい花火を出そうとして、ガーヴが気付いた。
「え、なんだよ兄貴、もう最後なのか?」
「仕方ないわよ。買ってきてたの、子供用の小さいのだもの」
「最近の子供用は結構派手な火花が出るんだなー」
「そうだな。ほれ、フィリア、最後の一本」
ガーヴが線香花火を差し出すと、少し名残惜しそうな頬笑みで、フィリアはそれを受け取り火をつける。
ぱちぱち、ぱちっ。
先ほどまでの花火とは比べ物にならないほど儚げで小さな火花。だが、それが却って終わりの近い夏に似合っているようで、「ショボい」なんて空気を壊すような言葉は言わず、三人はじっと火花を見つめた。
ぱち、ぱちぱち。
火花が弱まる。もう、十秒もすれば先端の火は落ちてしまうだろう。ふとフィリアを見ると、眉根を寄せて、切なげな哀しげな顔をしていた。ちらとヴァルガーヴを見ると、なにかものいいたげにこちらもフィリアを見つめていた。
「あ」
ぱち、と最期の火花がはじけた。おわっちゃう、フィリアの声が聞こえた気がした。赤い火の玉が落ちる。そこに――
「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
思わず手を出したらしいヴァルガーヴの絶叫が谺した。
「な、なにしてるの、ヴァル! バカね、火の球を受け止めようなんて熱いに決まってるでしょう!」
「うるせーな、つい手が出ちまったんだよ!」
「早く冷やして! ガーヴさん、氷を持ってきてください!」
「了解」
ガーヴは玄関を開き、靴を脱いで家にあがる。バカね、か。確かに馬鹿だ。花火は終わるから美しいのだし、触れば火傷をする。当たり前だ。
――それでも、なあ。
あんな顔をされては。
つい、終わらせたくなくて。まだ続いた、と輝く笑顔が見たくて。とっさに受け止めてしまうのも仕方あるまい。
ビニール袋にひとつふたつ氷を入れて戻ると、フィリアが真っ赤な目をしてヴァルガーヴの手を検分していた。ほら、こんなに真っ赤になって。どうしてあんなことしたんですか。しらねーよ、なんとなくだよ、なんとなく。
ふっとガーヴは笑った。本当は少しでも早く氷を渡さないといけないのだが、正直、これはお邪魔虫だ。
「ガーヴさん、何してるんです、早く氷!」
フィリアに気付かれて、やれやれと二人に近づき氷をヴァルの手のひらにのせる。うわ、つめて、とヴァルガーヴが顔をしかめた。
ちゃんとお薬塗ってね。いいって、ちょっと冷やせば大丈夫だよ。大丈夫じゃありません! もう。
フィリアに手をしっかりと握られて、ヴァルガーヴはそっぽを向きながら唇をひん曲げている。暗くてどれくらい顔が赤くなっているのか見えないのがすこし残念だ。
「もういい」
ぱっとヴァルガーヴが手を引っ込める。
「まだだめよ」
「いいって」
「でも」
「気にすんな、フィリア」
なおもヴァルを捕まえようとするフィリアをガーヴが制した。
「オレはこいつを片付けとくから、ヴァル、おまえフィリアを送って行け。フィリア、家についたら薬塗ってやってくれ」
よっ、と水で重いバケツを持ち上げながらガーヴは続けた。
「……わかりました。ヴァル、本当に大丈夫?」
「だいじょうぶだっつに」
「真っ暗になる前にはやくしな。最近は住宅街で男付きでも結構物騒だぜ」
「……じゃあ兄貴も来いよ。帰りは俺一人じゃねーか」
「オレがいないと送りオオカミにならない自信がないか?」
「ちげーよバカ! もういいっ、いくぞフィリア!」
右手に氷を握りしめ、左手で勢い任せにフィリアの手を握り、ヴァルガーヴがどんどん歩いて行く。
「あ、ヴァル、ちょっとまって、ちょっとはや……」
「しらねー! しらねー!」
どんどん遠くなる二人の背中に、ガーヴは大声で呼びかけた。
「おいフィリア、またやろうぜ。花火買っといてやるよ。今度は浴衣で来な! ヴァルが喜ぶ」
はいっ、フィリアが答える。
そんくらいでよろこばねー、え、喜んでくれないんですか? しらねー! 俺はしらねー!
月夜に、遠ざかっていく二人の声が響いていた。
ああ、ほんとにウチのバカ弟は素直じゃねえ。まだまだ随分、お兄ちゃんの楽しみは続きそうだ。にやにやにやにや。
-------------------------------------------
「フィリアの表情に思わず落ちた火を受け止めようとするヴァル」がまず浮かんで、それが書きたかったのです。
はっ、今気付いたけどジラスなら花火とか結構ぱぱっと作れそうだ。するとこの話は高校生パロじゃなくて子ヴァルとフィリアジラスグラボスの四人にした方がよかったか。
パラレルは書く分には楽しいけど少なからず読む人を選ぶ分があるみたいだからなあ。うーんうーん。
襟元を団扇で煽ぎながら冷えた麦茶を呷るガーヴに、子供用の花火セットを取り出して、フィリアが小首をかしげながら上目遣いに提案した。
「花火? なんだよガキじゃあるまいし」
リビングと一続きになったキッチンの冷凍庫から、アイスキャンディーを取り出しながらヴァルガーヴがジト目で言う。
「夏休みがはじまりたての頃、懐かしくなってひとつ買っておいたんですけど、そのままほったらかしになってたのを思い出して。今年はガーヴさんが予備校の夏期講習でどこにも行けなかったし、夏らしい思い出が何にもないんですもの。ヴァル、それもう今日三本目よ。先週の夏祭りもアイスの食べ過ぎでお腹壊して行けなかったんだからちょっとは反省して」
うるせーな、しょーがねーだろ暑いんだから、と舌を出すヴァルガーヴに、「それなら今度は一週間カレーにするわよ」とフィリアが唇を突き出す。そういえば先週ヴァルガーヴが腹を壊したとき、直った後三日も連続で熱々のカレーだった、暑いときに何が悲しくて熱くて辛いもんをくわなきゃならねーんだと散々愚痴られた。フィリアがガーヴに料理を習いたいと言いだしたのは数か月前だ。夏にも入ってそれもずいぶんと手慣れてきたので、ガーヴが夏期講習で家を空ける夏休み中の昼は、フィリアがこうして昼食を作りに来ている。そのまま午後は丸々フィリアはガーヴの家で過ごしているようで、おかげでヴァルは宿題もはかどって(というより無理やりやらされて)いるらしい。そんなこんなで、今年は宿題が終わらないと泣きつかれずに済みそうだとガーヴは安心して夏休みを満喫していた。受験勉強漬けを満喫していると言っていいのなら、だが。
「またカレーかよ。たまには素麺にしようぜ。今年に入ってまだ素麺二回しか食べてないぞ。夏ってったら素麺だろ」
「素麺は食べやすいけど栄養価が低いしお腹にたまらないから、夏バテ防止に控えるようにってガーヴさんから言われてるのっ」
「そーだぞヴァル、大人しくフィリアの言うこと聞け。多少尻に敷かれとく方が家庭はうまくいく」
「兄貴はここんとこフィリアの味方ばっかだ。大体なんで俺がフィリアのでかい尻に敷かれてやらなきゃならねーんだよ」
「将来の予行演習、いや予行じゃねぇか。相手はフィリアに決まってるんだから」
「決まってねーよ!」
「ちょっとヴァル、私のお尻が大きいってどういうこと!」
「うっせーな、フィリアの乳と尻はでかいって評判なんだよ!」
「なっ……誰が言ってるんです、そんなこと! 確かめもしないでっ」
「確証がないのに言うのはよくねーな。触らしてもらって確認しとけ」
「ばっ、バカ言ってんじゃねーバカ兄貴! どーでもいーだろそんなこと! フィリアの乳がでかかろうが尻が垂れてようが俺はしらねーし! 関係ねーし! しらねーったらしらねー!」
「私のお尻は垂れてません!」
「しらねー! しらねー!」
ぱん!
ガーヴが両手を叩き合わせて音を立てると、ふたりがはたと固まった。
「花火がしたいんだったな、フィリア?」
「あ……はい。そうです」
「いいじゃねえか。やろうぜ。たまには童心に帰って夏の思い出を作るのもいいだろ。ヴァル、昼飯作ってもらってるんだからそれくらいつきあってやれ」
ガーヴが言うとヴァルは唇をひん曲げた。最初に煽ってきたのは兄貴の癖に、いきなり大人ぶんなよ、とぶちぶち呟いているが聞こえないふりをする。
「日が落ちるのも早くなったし、まだちっと明るいがはじめるか。いくら近所ってもあんまり遅くまでフィリアを付き合わすのも悪いしな。まあもちろんヴァルに送らせるけど」
また俺かよ、いーけど、フィリアになんかあったら後味悪いし、けど、あー、もー、しらねっ。ヴァルガーヴがまたぶつぶつと呟いているが、フィリアの耳には届かなかったようだ。
「本当ですかっ!?」
大きな瞳を目いっぱい見開いてきらめかせながら、フィリアがガーヴに迫る。
「おう。バケツに水入れて持ってくから、先に外出てろよ」
「はいっ。行きましょ、ヴァル!」
「へいへい」
アイスキャンディーの棒を捨て、うんざり顔でヴァルガーヴがフィリアの後に続く。今にもスキップをはじめそうなくらいうきうきした様子のフィリアは、はやくはやく! とヴァルガーヴの手をつかんで引っ張っていく。瞬間、ヴァルガーヴの頬がさっと赤くなるのをガーヴは見逃さなかった。なにはしゃいでんだよ年甲斐もなく。もー、俺、しらねー。とか呟いているに違いない。照れたついでに、珍しく髪をアップにしているせいであらわになったうなじの白さにもどぎまぎしているに決まっている。ああ、素晴らしきかな青春。お兄ちゃんは何でもお見通しだ。本当は二人っきりにしてやりたい気もするが、たまには混ぜてもらってもいいだろう。
さてバケツ……と蝋燭はどこだったかな、とガーヴはソファから腰を上げた。
「きゃあ、きれい! 本当、花火なんて久しぶり。小学校以来だわ」
「……そう言えば俺もそうだ。そっか、フィリアと花火すんのは初めてか。中学入ってからだったもんな、フィリアが越してきたの」
「そうよ、ヴァル、気づいてなかったの? あ、色が変わった! 緑色。きれい……」
青い瞳に緑の火花を映して、うっとりとフィリアが頬に手をあてる。
「ほれフィリア、見てばっかいないでお前もやれよ」
ガーヴは袋から適当に出した一本をフィリアに手渡してやる。
「はいっ。ありがとうございます」
フィリアが花火に蝋燭から火をつけると、じゃあああとかぱちぱちとか言わせながらオレンジの火花が飛びだした。
「わー、きれい……。買っておいてよかった」
「兄貴、俺の終わっちまった。次の出してくれよ」
「おう」
ヴァルガーヴに新しい花火を手渡すと、これまた鮮やかな火花があがる。ヴァルガーヴとフィリアの二人は、しばらく言葉もなく花火を見つめていた。ガーヴは黙って、ほの赤く照らされた二人の顔を眺める。
ぱち。
すこし大きな音がして、二人の花火が同時に消えた。
「あ、終わっちゃった」
残念そうに、フィリアは終わった花火をバケツの水につける。
「あ、これでもう最後だ。線香花火」
新しい花火を出そうとして、ガーヴが気付いた。
「え、なんだよ兄貴、もう最後なのか?」
「仕方ないわよ。買ってきてたの、子供用の小さいのだもの」
「最近の子供用は結構派手な火花が出るんだなー」
「そうだな。ほれ、フィリア、最後の一本」
ガーヴが線香花火を差し出すと、少し名残惜しそうな頬笑みで、フィリアはそれを受け取り火をつける。
ぱちぱち、ぱちっ。
先ほどまでの花火とは比べ物にならないほど儚げで小さな火花。だが、それが却って終わりの近い夏に似合っているようで、「ショボい」なんて空気を壊すような言葉は言わず、三人はじっと火花を見つめた。
ぱち、ぱちぱち。
火花が弱まる。もう、十秒もすれば先端の火は落ちてしまうだろう。ふとフィリアを見ると、眉根を寄せて、切なげな哀しげな顔をしていた。ちらとヴァルガーヴを見ると、なにかものいいたげにこちらもフィリアを見つめていた。
「あ」
ぱち、と最期の火花がはじけた。おわっちゃう、フィリアの声が聞こえた気がした。赤い火の玉が落ちる。そこに――
「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
思わず手を出したらしいヴァルガーヴの絶叫が谺した。
「な、なにしてるの、ヴァル! バカね、火の球を受け止めようなんて熱いに決まってるでしょう!」
「うるせーな、つい手が出ちまったんだよ!」
「早く冷やして! ガーヴさん、氷を持ってきてください!」
「了解」
ガーヴは玄関を開き、靴を脱いで家にあがる。バカね、か。確かに馬鹿だ。花火は終わるから美しいのだし、触れば火傷をする。当たり前だ。
――それでも、なあ。
あんな顔をされては。
つい、終わらせたくなくて。まだ続いた、と輝く笑顔が見たくて。とっさに受け止めてしまうのも仕方あるまい。
ビニール袋にひとつふたつ氷を入れて戻ると、フィリアが真っ赤な目をしてヴァルガーヴの手を検分していた。ほら、こんなに真っ赤になって。どうしてあんなことしたんですか。しらねーよ、なんとなくだよ、なんとなく。
ふっとガーヴは笑った。本当は少しでも早く氷を渡さないといけないのだが、正直、これはお邪魔虫だ。
「ガーヴさん、何してるんです、早く氷!」
フィリアに気付かれて、やれやれと二人に近づき氷をヴァルの手のひらにのせる。うわ、つめて、とヴァルガーヴが顔をしかめた。
ちゃんとお薬塗ってね。いいって、ちょっと冷やせば大丈夫だよ。大丈夫じゃありません! もう。
フィリアに手をしっかりと握られて、ヴァルガーヴはそっぽを向きながら唇をひん曲げている。暗くてどれくらい顔が赤くなっているのか見えないのがすこし残念だ。
「もういい」
ぱっとヴァルガーヴが手を引っ込める。
「まだだめよ」
「いいって」
「でも」
「気にすんな、フィリア」
なおもヴァルを捕まえようとするフィリアをガーヴが制した。
「オレはこいつを片付けとくから、ヴァル、おまえフィリアを送って行け。フィリア、家についたら薬塗ってやってくれ」
よっ、と水で重いバケツを持ち上げながらガーヴは続けた。
「……わかりました。ヴァル、本当に大丈夫?」
「だいじょうぶだっつに」
「真っ暗になる前にはやくしな。最近は住宅街で男付きでも結構物騒だぜ」
「……じゃあ兄貴も来いよ。帰りは俺一人じゃねーか」
「オレがいないと送りオオカミにならない自信がないか?」
「ちげーよバカ! もういいっ、いくぞフィリア!」
右手に氷を握りしめ、左手で勢い任せにフィリアの手を握り、ヴァルガーヴがどんどん歩いて行く。
「あ、ヴァル、ちょっとまって、ちょっとはや……」
「しらねー! しらねー!」
どんどん遠くなる二人の背中に、ガーヴは大声で呼びかけた。
「おいフィリア、またやろうぜ。花火買っといてやるよ。今度は浴衣で来な! ヴァルが喜ぶ」
はいっ、フィリアが答える。
そんくらいでよろこばねー、え、喜んでくれないんですか? しらねー! 俺はしらねー!
月夜に、遠ざかっていく二人の声が響いていた。
ああ、ほんとにウチのバカ弟は素直じゃねえ。まだまだ随分、お兄ちゃんの楽しみは続きそうだ。にやにやにやにや。
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「フィリアの表情に思わず落ちた火を受け止めようとするヴァル」がまず浮かんで、それが書きたかったのです。
はっ、今気付いたけどジラスなら花火とか結構ぱぱっと作れそうだ。するとこの話は高校生パロじゃなくて子ヴァルとフィリアジラスグラボスの四人にした方がよかったか。
パラレルは書く分には楽しいけど少なからず読む人を選ぶ分があるみたいだからなあ。うーんうーん。
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